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日本政府がレアアースを「最重要課題」とする理由|経済安全保障推進法から南鳥島プロジェクトまで徹底解説

2026年2月、高市早苗首相の施政方針演説を前にした株式市場の人気テーマランキングで、「レアアース」が防衛や半導体を抑えて1位になりました。一民間企業のテーマ株ではなく、一国の総理大臣が国会で真正面から取り上げるテーマになった背景には何があるのか。この記事では、法制度・予算・外交・海洋開発という4つの切り口から、日本政府がレアアースをどう「国家の最重要課題」として扱っているのかを、時系列を追いながら深掘りします。

なぜ今、政府にとって最優先課題なのか

2026年2月20日の施政方針演説で、高市首相は経済安全保障・食料安全保障・エネルギー資源安全保障などのリスクを最小化する取り組みを「危機管理投資」と位置づけ、AIや半導体と並ぶ「成長投資」の対象として重要鉱物の安定確保を掲げました。演説の原案が事前に報じられた段階から、南鳥島周辺海域の海底資源活用を急ぐ姿勢が示されるとの見立てが広がり、市場では「レアアース」が最も注目される投資テーマに躍り出ています。

この「危機管理投資」という言葉が象徴するように、政府にとってレアアースはもはや一部業界の原材料調達問題ではなく、防衛力強化やエネルギー政策と並ぶ安全保障マターとして扱われています。その転換点になったのが、2026年1月6日に起きたある出来事でした。

発端:2026年1月6日、中国による対日輸出規制の衝撃

2026年1月6日、中国商務部は軍民両用(デュアルユース)品目について、日本向けの輸出管理を即日強化すると発表しました。対象品目の具体的なリストは公表されていないものの、レアアース関連製品も含まれるとの見方が強く、直後から日本の産業界に緊張が走りました。

この措置は、同年11月に高市首相が国会で台湾有事を巡って行った答弁を受けた、事実上の報復的性格を持つものと分析されています。外務省幹部からは「威圧的外交の一環」との見方が示され、日本政府はその日のうちに外交チャネルを通じて抗議と措置撤回を要請しました。自由貿易の原則から明確に逸脱した、異例の対応だったといえます。

ポイント:中国のレアアース関連規制は、実は性質の異なる2つの措置が同時に存在しています。①2025年10月に打ち出された世界向けの包括的な輸出管理強化(中重希土類・生産設備等が対象)は、同年10月30日の米中首脳会談での合意を受けて2026年11月10日まで一時停止中です。②これに対し2026年1月6日の対日デュアルユース規制は、日本だけを対象にした別枠の政治的措置であり、米中合意の対象外として今も効力を保っています。

経済損失の試算:3か月停止で6,600億円

もし規制が輸入停止にまでエスカレートした場合、日本経済への打撃はどの程度になるのでしょうか。野村総合研究所などの試算によれば、レアアース輸入が3か月間停止した場合の経済損失は約6,600億円、1年間続いた場合は約2.6兆円に達するとされています。

産業別の影響度分析では、EV・HVを中心とする自動車産業への影響が最も深刻で、生産量が17.6%減少すると見込まれています。これに風力発電(12%減)、電子部品(8.5%減)が続きます。消費者への影響としては、自動車の納期長期化、家電・スマートフォンの在庫逼迫、そして2010年の規制時に観測されたような数倍規模の価格高騰の再来が懸念されています。

「規制は緩んでいない」というのが2026年8月時点の現実

では、この措置は落ち着きを見せているのでしょうか。答えは否です。2026年1〜6月の中国から日本向けレアアース輸出量(規制対象品目)は前年同期比で5割減少しており、同時期の対米輸出の減少幅(1割超)を大きく上回っています。中国が経済的威圧・外交上の交渉材料としてレアアースを使う姿勢は、2026年8月現在も変わっていません。

政策の土台:経済安全保障推進法と「特定重要物資」制度

こうした事態に備える法的な枠組みとして機能しているのが、2022年に成立した経済安全保障推進法です。この法律に基づき、政府はレアアースをニッケルやマンガンなど約35〜36鉱種とともに「特定重要物資」に指定し、探鉱・鉱山開発・精錬・リサイクル・備蓄に至るまでを対象とした包括的な支援スキーム(補助金・出資・債務保証・備蓄補填など)を運用しています。

企業が策定する「供給確保計画」が政府に認定されると、国からの資金的支援が受けられる仕組みになっており、これまでに三菱マテリアル(ニッケル・コバルト・リチウム)、住友金属鉱山・三菱商事(豪州のニッケル・コバルト事業)、日向製錬所(ニッケルマット転炉の新設)など、複数の案件が認定を受けています。

国家備蓄戦略の見直し:60日分から180日分へ

政府はJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じて、レアアースを含む34鉱種のレアメタルを対象に国家備蓄を行っています。これまでは民間備蓄と合わせて需要量の60日分を確保することが目安とされてきましたが、地政学リスクが特に高い鉱物については、より踏み込んだ180日分程度の備蓄水準を目安とする方針への転換が進められています。

これは、2025年10月の中国による世界向け輸出管理強化、そして2026年1月6日の対日デュアルユース規制という2つの出来事を経て、従来の「需給が逼迫した際の調整弁」という位置づけから、「供給が完全に途絶した場合の最後の砦」という、より切迫した位置づけへと国家備蓄の役割そのものが変化してきたことを反映しています。

最新の一手:政府単独での海外権益取得へ(2026年8月20日)

本記事執筆時点(2026年8月)での最新の政策動向が、経済産業省が同月20日に示した新方針案です。経産省は産業構造審議会の小委員会に対し、レアアースなど重要鉱物の海外鉱山開発・製錬事業について、政府(JOGMEC)が単独で権益を直接取得できる制度への転換を提案しました。

現行制度では、JOGMECが鉱山開発・製錬事業に出資する際は日本企業との共同出資が条件になっています。しかし国際的な資源獲得競争が激化するなか、リスクの大きさから日本企業が出資に踏み切れない案件も増えています。新方針は、そうした「企業が手を出せない案件」について、政府主導で開発を後押しできるようにすることを狙ったものです。実現すれば、レアアース権益の獲得スピードと選択肢の幅が大きく広がる可能性があります。

切り札としての南鳥島レアアース泥プロジェクト

輸入依存からの脱却を目指す上で、政府が最も力を入れているのが、東京都・南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)海底に眠る「レアアース泥」の開発です。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が主導し、JAMSTEC(海洋研究開発機構)の地球深部探査船「ちきゅう」が実際の採泥試験を担っています。

2026年2月、世界初の快挙

2026年2月2日、「ちきゅう」は南鳥島沖の水深約6,000メートルの海底から、レアアースを含む泥の連続的な引き揚げに世界で初めて成功したと発表されました。2022年に行われた水深2,470メートルでの揚泥が「理論上の可能性」を示す実証実験だったのに対し、今回は6,000メートル級という実際の商業採掘を見据えた深度での成功であり、技術的な実現可能性を大きく前進させたと評価されています。清水港に帰港した後の分析では、採取された泥に含まれる元素のうち、中希土類・重希土類が全体の54%を占めることも明らかになりました。

今後のスケジュール

時期内容
2026年1月12日「ちきゅう」が清水港を出港、試掘へ
2026年2月2日水深約6,000mからの連続揚泥に世界で初めて成功
2026年2月15日清水港に帰港、泥の成分分析を開始(中重希土54%と判明)
2027年2月(予定)1日あたり数百トン規模の本格採鉱試験、南鳥島に脱水処理施設を建設
2028年3月まで(予定)採算性を含めた総合評価を政府に提出
2028年度以降(見込み)産業化・商業化フェーズへの移行を目指す

日本のEEZ内には約1,600万トンのレアアースが眠っているとの試算もあり、これが実際に開発可能となれば、埋蔵量ベースで世界3位相当の規模になるとされています。採掘技術には石油採掘で培われた技術の応用が利く部分が多いとされる一方、放射性元素をほとんど含まないクリーンな資源として、環境負荷の低い「閉鎖型循環方式」の採用が検討されている点も特徴です。もっとも、「泥から実際に使える金属を取り出せる」ことと「採算に合うコストでそれができる」ことは別問題であり、2028年3月に予定される総合評価が、このプロジェクトの本当の分岐点になります。

供給源の多角化:「脱・中国」を進める国際連携

南鳥島開発と並行して政府が進めているのが、中国以外の国・企業からの調達ルート確保、いわゆる「フレンドショアリング」です。

日米連携の深化:2026年3月の首脳会談

対中依存の低減という点で、政府が特に重視しているのが米国との連携です。2026年3月19日(現地時間)、高市首相はワシントンでトランプ大統領と会談し、レアアースを含む重要鉱物のサプライチェーン強化に向けた「日米重要鉱物プロジェクト」を共同で発表しました。

共同ファクトシートでは、米国内での4つの具体的な事業が示され、三菱マテリアルが米インディアナ州でのレアアース事業への出資を検討するほか、三菱商事による銅鉱山事業、三井物産によるリチウム関連事業なども含まれています。この会談に先立つ同年2月には、米国務長官主催の重要鉱物閣僚会合に外務副大臣が出席するなど、実務レベルでの協議も積み重ねられてきました。

背景には、トランプ政権自身もレアアース確保を地政学戦略の重要な柱と位置づけ、同盟国・友好国からの優先調達を志向する姿勢を強めているという事情があります。日本にとっては、中国という単一の供給国への依存を、南鳥島という「自国資源」と、米国という「同盟国ルート」の両輪で薄めていく戦略といえます。

政府の主要な取り組み年表

時期出来事
2022年経済安全保障推進法が成立、レアアースを含む鉱物を「特定重要物資」に指定
2025年10月中国が世界向けにレアアース輸出管理を強化(米中合意により2026年11月まで停止中)
2025年10月双日がライナス社製レアアースの対日輸入を開始
2026年1月6日中国が対日デュアルユース規制を発表、即日施行
2026年1月12日〜2月15日「ちきゅう」による南鳥島レアアース泥の試掘・揚泥成功
2026年2月20日高市首相の施政方針演説でレアアースへの取り組みに言及
2026年3月19日日米首脳会談、「日米重要鉱物プロジェクト」発表
2026年8月20日経産省がJOGMEC単独での海外権益取得を可能にする方針案を提示
2027年2月(予定)南鳥島での本格採鉱試験
2028年3月(予定)南鳥島プロジェクトの総合評価

残された課題とリスク

政府の取り組みが加速している一方で、専門家や業界からは冷静な指摘も出ています。

第一に、精製・分離技術のボトルネックです。南鳥島の泥や豪州・フランスからの鉱石を確保できたとしても、それを実際に使える純度まで精製する能力の大半は依然として中国に集中しています。第二に、コスト競争力です。深海採掘や新規精錬拠点の立ち上げには巨額の初期投資が必要であり、中国産と比べた価格競争力を確保できるかは未知数です。第三に、国家備蓄の実効性です。JOGMECの備蓄量そのものは公表されておらず、有事の際に本当にどれだけの供給維持能力があるのかは外部から検証しづらい構造になっています。第四に、南鳥島プロジェクトの経済性そのものが、2028年3月の総合評価まで正式には確定しないという点です。「技術的に掘れる」ことは証明されつつありますが、「事業として成立する」かどうかは、まだこれからの検証課題として残されています。

まとめ:2027年2月と2028年3月が次の節目

日本政府にとってレアアースは、もはや一部産業の原材料調達問題ではなく、経済安全保障推進法という法制度、JOGMECを通じた国家備蓄と海外権益獲得、南鳥島という自国資源開発、そして日米連携という外交カードまでを総動員する、国家戦略そのものになっています。その直接のきっかけは2026年1月6日の中国による対日規制でしたが、法的な土台自体は2022年の経済安全保障推進法から一貫して積み上げられてきたものです。

今後の焦点は明確です。2027年2月に予定される南鳥島での本格採鉱試験と、2028年3月にまとめられる総合評価。この2つの節目で「掘れる」から「事業として成立する」への橋渡しができるかどうかが、日本のレアアース戦略が絵に描いた餅で終わるか、本当の意味での供給源の多角化に結びつくかを左右することになります。

本記事は2026年8月時点で公表されている政府資料・報道をもとに作成しています。中国の輸出規制の運用状況、南鳥島プロジェクトの進捗、予算措置などは変化が速い分野のため、最新情報は経済産業省・JOGMEC・内閣府などの公式発表をあわせてご確認ください。本記事は特定銘柄への投資を推奨・勧誘するものではありません。

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